東京都台東区、上野公園の一角に、東京都美術館があります。
前川國男の設計です。
新館として、1975年(昭和50年)に完成した、二代目の美術館です。
1 建築家「前川 國男」
東京都美術館が出来る前、この場所には、当時の「東京府」が建設した、「東京府美術館」がありました。
「東京府美術館」の方は、大正から昭和初期に活躍した建築家、岡田 信一郎(おかだ しんいちろう、1883(明治16)年~1932(昭和7)年)の設計。
「東京府美術館」は、日本で最初の公立美術館として、1926年(大正15年)に開館しました。
その後、40年以上が過ぎ、建物の老朽化とともに、来館者や使用団体の増加に対応できなくなったことから、東京都は、1968年(昭和43年)に、新館建設の準備委員会を立ち上げました。
1975年(昭和50年)に、約50億円の総工費をかけて完成したのが、現在の東京都美術館です。
設計は、前川 國男(まえかわ くにお、1905(明治38)年~1986(昭和61)年)。
前川は、ル・コルビュジエや、アントニン・レーモンドのもとでモダニズム建築を学び、第二次世界大戦の後の、日本建築界をリードした人。
丹下 健三(たんげ けんぞう)なども前川事務所の出身です。
1986年(昭和61年)に81歳で亡くなるまで、現役を続けた前川にとって、1975年(昭和50年)に竣工した東京都美術館は、後期の作品の一つ、です。
■中央広場から見えてくる展示棟
■1階の中央広場から入り口方向を振り返る
■地下1階の正面入口の中から中央広場を望む
■レストランがある棟の内部。レトロな雰囲気が残る
2 前川建築の代名詞「打ち込みタイル」
上野公園の緑の中に佇む、東京都美術館は、レンガ色の外観が印象的です。
敷地面積は約12,000㎡。
地下3階、地上2階建て。
建物の約60%が地下になっています。
高さを低く抑えて、周りの風景と調和させた設計が、当時から、高く評価されています。
ただし、これは、新館建設にあたって、より多くの企画展や公募展を開催できる機能が求められた一方で、風致地区の高さ制限などのために、旧館以下の建築面積に抑える必要があった、という事情による、苦肉の設計でもありました。
(地下は、原則、法律上の建築面積に算入されないので。)
このような機能的要求と、敷地条件を受けて、企画展・常設展を行うブロック、公募展示を行うブロック、そして文化活動のブロックをそれぞれ独立させて、中央の広場を取り巻くように配置する構想がまとめられました。
「東京都美術館基本設計説明書」の中には、「①展示された美術品に対して、あくまで『中立平静』な背景を提供すること、②外部環境の疎外をできる限り避けること、③耐久性を考慮した素材および構法によって『平凡な素材によって、非凡な結果を創出する』こと」という、三つのテーマが掲げられました。
この『外部環境の疎外をできる限り避ける』という考え方から、例えば、大きな欅の木などを、切らずに残すという、建物の配置になりました。
また、『耐久性を考慮した、素材、構法』という考え方は、何と言っても後期の前川建築の象徴である「打込みタイル工法」につながっています。「打込みタイル工法」は、前川自身が、こだわりをもって開発したものです。
東京都美術館の外壁の、ほぼ全て、焼きレンガ色の打込みタイル工法で、造られています。
レンガのように見える外壁は、実はタイルです。
通常、タイルは、装飾として、コンクリートの壁などに、後から貼り付けられます。
しかし、この「打込みタイル工法」は、コンクリートを流し込む型枠の内側に、タイルを組み込んでから、コンクリートを入れてくっつけてしまう、というものです。
耐久性が格段に高まる、と言われています。
レンガの風合いと、強度の両立を図ろうという工法です。
1975年(昭和50年)の竣工から、35年以上が経ち、老朽化が進んでいたことから、2010年(平成22年)から約2年をかけて、改修工事が実施されました。
既存の躯体を残したうえで、全面的に改修するという、大規模な工事でした。
設備の全面更新に加え、ユニバーサルデザインの対応なども行われました。
設計監理は、現在の前川建築設計事務所が担いました。
2012年(平成24年)4月の、リニューアル・オープンなので、大規模改修から考えても、既に、10年以上の歳月が流れています。
現在、外壁に近づいてみても、その時間の経過による、劣化の様子が感じられません。
内装のレトロな雰囲気の一方で、外壁が新しいことに、少し奇妙なギャップを覚えるほどです。
打込みタイルの優秀さが実感できます。
外壁のタイルは、改修の際に、建設当時の色合いをそのままに、再現されたものです。
丈夫な素材などの工夫に加え、その建築の思想をよく理解する、後進の育成を図ったからこそ、こうして自身の建築作品がまた蘇り、今後も長く、人々のために役立つことになったわけです。
仕事に臨む正しい姿勢と、後に続く人達への伝達。
これこそ後生に残る、良い仕事のお手本かもしれません。
■展示棟の壁面
■美しい打込みタイル
■レンガ風の壁が交錯
■切らずに残した大木と共存する建築
