♦17 復興祈念公園「祈りの帆-セイル-」(宮城県気仙沼市)

♦となりの建築

宮城県の県北、沿岸部にある気仙沼市。
市街地を一望する、高台の上。

ここに、東日本大震災から10年となる、2021年(令和3年)3月11日に開園した、小さな公園があります。

1 モニュメント『祈りの帆』

気仙沼市の復興祈念公園は、古くから「陣山」と呼ばれてきた、標高約60メートルの高台に、建設されました。このような復興公園としては小さな、約2.3ヘクタールの公園です。

「陣山」は、市街地に近く、市民には昔から、馴染みのある場所でした。
戦国時代の史跡の一つで、戦の陣を張った場所だったと言われています。

東日本大震災の津波と、その後の火災で、甚大な被害を受けたエリアを、すぐ眼下にのぞむ位置関係になっています。気仙沼湾の奥、湾口部、さらには水平線まで、ぐるりと、四方が見渡せるような場所です。(海から見て、陣山の裏側の地区まで、震災時には、被害が及びました。)

東日本大震災の後、各地に建設された復興公園の立地には、共通した特徴があります。

それは、津波で浸水した地域(平地)に、大きな区画を確保して、建設されている、というものです。

これには、幾つかの事情があります。
一つには、震災で被害を受けた遺構などを、伝承施設として、その場所で、そのまま保存しよう、というもの。

もう一つは、土地の利用制限なども生じ、実際のところ、他には活用が難しい、広い土地が残ってしまった、というような事情です。

このような流れと異なり、気仙沼市の復興公園の建設地には、将来的にも津波浸水のおそれがない、小高い丘の上が選ばれました。

これは「追悼の場所が、再び津波に侵されることは避けよう」という、市長をはじめとする、市の方針が、早い段階から固まっていたためです。

小さな公園ですが、敷地の中には、モニュメントの他、犠牲者銘板、寄附者銘板、伝承彫刻などが設置されています。

園路を進み一番高い位置までたどり着くと、そこには『祈りの帆-セイル-』と名付けられたモニュメントがあります。

この、高さ10mのモニュメントは、船舶用のアルミニウム合金で製作されています。
気仙沼市の産業である、造船技術を生かしたものです。

船の「帆」のようでもあり、合わせた両の手のようでもある、このモニュメント。

中は、どういう造りになっているのだろうと、恐る恐る、近づくと、合わせた手のひらの隙間のような入り口に、『祈りの帆』という表記があることに気が付きます。

そこから中に進むと、正面に、クリスタルガラスで作ったという、献花台が一つ。
その視線の先に見えるのは、気仙沼のまちと、海。

なるほど。
両側の視界が遮断されて、他の情報に邪魔されることなく、海と向き合える環境が整えられていることが、実感できます。

自分自身の心の奥底と、静かに、向き合える場所でもあります。
まさに、祈りを捧げる空間、が演出されています。

■駐車場から見上げるモニュメント

■公園の全体説明版

■階段(他に緩いスロープのルートもあります)

■モニュメント(祈りの帆)

■モニュメント入り口

■『祈りの帆(セイル)』

■モニュメント内部

■前に進むと献花台

■献花台を上から

■献花台の向こうに広がる海

■見上げれば青空と雲と光

2 伝承彫刻

モニュメントを出て横にまわると、その向こうへの、立ち入りを制限する柵があることに気が付きます。

足下を見ると「これより先は、祈りの間ですので、立ち入らないでください」との、小さなプレート。

なるほど。
つまり、モニュメントの中から、海に向き合っている人がいたとして、その視線の先を、誰かが横切ったりしないように、配慮がされているわけです。

その柵の直ぐ横に、彫刻が設置されています。
「№0」番の、『海へ』というタイトルの彫刻。

この復興祈念公園は、犠牲者を悼み、その記憶を後世に伝えるため、2021年(令和3年)に開園しました。しかし、実はまだ、手が加え続けられていて、その意味では、まだ未完成の公園ともいえます。

というのは、園内に設置されている、一連の彫刻が、まだ増えているからです。

震災を経た後の、人々の様々な感情を表現した、この彫刻は、「伝承彫刻」と名付けられています。数十センチメートルのサイズ感の、陶製の彫刻です。

開園当初は、3体でした。

2026年(令和8年)3月には、6体目となる消防団員の像(タイトル「悲憤を越えゆく者」)が設置されました。

制作を続けているのは、彫刻家の皆川 嘉博(みながわ よしひろ)氏。
美術教育学者でもあり、秋田公立美術大学で教授を務めている人です。

気仙沼市の、この小さな公園では、これからも、後世に伝えるべき、人々のストーリーを、伝承彫刻という形で、表現していく予定となっています。

■モニュメント横の柵

■足下のプレート

■モニュメント左側の彫刻

■海風を受ける女性の像

■伝承彫刻№0『海へ』

■それでも海と共に生きるまち

■『祈りの帆』と『海へ』