都道府県や、市町村などの地方公共団体が、資金調達のため、発行する「地方債」。
2026年(令和8年)6月、滋賀県は、「ジェンダー平等債」という、ユニークな地方債を発行しました。
1 自治体初の「サスティナビリティー・リンク・ボンド」
近年、「ESG債」と呼ばれる、債券の活用が世界的に進んでいます。
「ESG」は、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字。
気候変動や地球環境の持続可能性への対応等に、資金を使うことを約束して、発行する債券です。
今般、滋賀県が発行した「ジェンダー平等債」も、このESG債の一種。
正式な銘柄名は「滋賀県第4回サステナビリティ・リンク・ボンド公募公債」。
「サスティナビリティ・リンク・ボンド」という形で、取組を始めたのは、自治体の中では滋賀県が最初です。2022年度(令和4年度)から発行しています。今回は、その第4弾です。
滋賀県の発表によると、発行額の50億円が、発行条件を決めたその日に、完売したそうです。
利率2.069%で、5年債。
地元の企業などを含む、いわゆる機関投資家(法人)が購入しました。
(地方債でも、住民が購入できるように発行する場合もあります。)
ESG債は、使途を明確にするという、「縛り」をかけて、資金を集めるものです。
自治体の場合は、一般的には、例えば○○施設の建設費に活用します、というような対応関係を明確にして、発行します。
滋賀県の「ジェンダー平等債」がユニークなのは、その「縛り」のかけ方です。
滋賀県が掲げた目標(即ち「縛り」)は、ホームページから引用すると、下記の通りです。
『(設定する目標) 女性活躍推進企業 認証制度の認証企業数 令和11年度末(2029年度末):三つ星企業27社、二つ星企業277社(令和8年(2026年)5月末:三つ星企業16社、二つ星企業151社)』
現在、人口減少対策としても、女性の活躍推進が、大きなポイントになっています。
中でも、職場側が、女性の働き方であったり、仕事と家庭の両立に配慮することが重要です。
そういった取組を進める、地元の優良企業を認証する(表彰して褒め称えて、お墨付きをあたえる)というのが、この「女性活躍推進企業」の認証制度。
現在、同様の取組が、全国の自治体で進められています。
滋賀県においても、そんな地元優良企業を増やします(三つ星企業を16社から27社へ、二つ星企業を151社から277社へ)というのが、今般の地方債の「縛り」なわけです。
それにしても、目標設定は、かなり具体的。
結果的に、目標達成できなかった、というのも自治体現場ではよくあることです。
そもそも、目標の達成状況に応じて、金利などの条件が変わるのが、いわゆるサステナビリティー・リンク・ボンドのはず。
まさか、目標達成できない場合、受け取る金利が上乗せになるのだろうか、と投資家目線で、少しドキドキして確認すると、滋賀県の資料には、続けてこう記されています。
『(目標の達成状況に応じた対応)目標を達成できなかった場合は、滋賀県が設けるジェンダー平等に資する事業の財源となる基金に対して、債券発行額の0.1%相当額を追加拠出する。』
つまり、もし目標達成できなかったら、県の基金(滋賀県庁の別のお財布のようなもの)へ、500万円を移して、さらにジェンダー平等に特化して、そのお金を使います、ということなわけです。
「楽屋落ち」的な雰囲気もあり、投資家目線では、旨みはありませんが、考えてみれば、県民目線からすれば、まっとうな仕組み、かもしれません。
同じ、滋賀県の公表資料には、こんな記述もあります。
『国内自治体が発行するESG債のうち、サステナビリティ・リンク・ボンドでは0.02%のプレミアムが発現しました。』
つまり、今回の取組で、50億円の0.02%、100万円ほどの利払い分、一般的な地方債より経費を圧縮できた(得をした、上手くやった)ということだと思います。

2 地方債を取り巻く環境
自治体のESG債は、東京都が2017年度(平成29年度)に、初めて発行しました。
その後、長野県や神奈川県なども導入し、次第に全国に広がりました。
特に、2022年度(令和4年度)頃から、発行する自治体数、発行額ともに急激に増えました。
気候変動への対応が急務になっていることが、その背景の一つであることは、間違いありません。
世界的に、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が進んでいます。
日本も、国際公約で、脱炭素化に取り組むことを示しています。
国内の投資家や企業に対し、その社会的責任を促す制度作りも進んでいます。
一方で、心配なのが、もう1つの背景である、地方債を取巻く環境の変化です。
近年、金利の上昇傾向を背景として、地方債の需要が縮小し、その結果としてスプレッド(国債への利回り上乗せ)が拡大する、という状況になっています。
これまで、長年、国の超低金利政策の下、(自治体の財政当局目線から見れば)地方債をとりまく市場環境は、極めて良好な状態だった、と言えます。
スプレッドも低く、低コストでの資金調達が可能でした。
その後の利払い(公債費)も低く抑えられてきました。
ところが、近年の国際情勢や、(人口減少を背景とする)人手不足などを起因として、いよいよ物価が上昇する局面になっています。金利も上がるようなら、固定金利である債券は不利です。
そのような中、資金調達の方法を多様化するために、特に、注目されているのが「ESG債」というわけです。
そもそも、人口減少対策として、「女性活躍推進」は、現在、正攻法の政策の一つです。
滋賀県の「ジェンダー平等債」は、そのような重要政策に正面から取り組みつつ、資金調達も進め、その上、財政上も、プラスの効果も生み出そうというものです。
いよいよ自治体の財政運営も、難しい時代に入りました。
しかし、この滋賀県の取組のように、今後も、あの手この手の、したたかな工夫で、きっと荒波を乗り越えていくのだろうなと思うところです。
