♣8 小畑勇二郎像(秋田県秋田市)

♣となりの彫刻

秋田県、秋田市。
県立博物館の正面横に、長く知事を務めた、小畑 勇二郎(おばた ゆうじろう)の銅像があります。
県の主要施設の、こんなに目立つ場所に、ある時代の知事の銅像が、設置されているのは、珍しいことだと思います。
小畑知事の仕事とともに、ご紹介します。

1 小畑知事の時代

小畑 勇二郎(1906年(明治39年)~1982年(昭和57年))は、秋田県知事を連続6期、務めた人です。
知事を務めたのは、1955年(昭和30年)から、1979年(昭和54年)までの24年間。

この時代に、秋田県は、新秋田空港の開港や、八郎潟の開拓、秋田大学医学部の開設など、今につながる県の骨格のようなものが形作られました。

小畑知事は、県政の最高責任者として、これらの多くの事業の舵取りを行いました。
秋田テレビの開局や、秋田県立博物館を建設したのも、この時代です。

小畑知事は、インフラ整備などのハード事業だけではなく、全国に先駆けた老人医療費の無料化や、生涯教育の推進など、幅広いソフト施策も進めました。

■元秋田県知事 小畑 勇二郎像

■顕彰会による銘文

知事を勇退したのは、1979年(昭和54年)4月。
3年後の、1982年(昭和57年)10月、76才の生涯を閉じました。

翌1983年(昭和58年)6月、秋田県立博物館の前に、銅像が設置されました。
小畑勇二郎顕彰会が、全国に広く募金を募り、その財源によって、建立されたものです。

■銅像のある秋田県立博物館

2 彫刻家 舟越保武

小畑知事の銅像を制作したのは、彫刻家 舟越 保武(ふなこし やすたけ)。

舟越 保武(1912年~2002年)は、戦後日本を代表する具象彫刻家の一人です。
東京芸術大学教授を務め、1980年(昭和55年)に定年退官した後は、多摩美術大学の教授も務めました。
1986年(昭和61年)に、東京芸術大学名誉教授となっています

■銅像の台座の表示

舟越 保武は、1912年(大正元年)に、岩手県一戸町で生まれました。
父親が熱心なカトリック信者でした。
1950年(昭和25年)、長男の一馬が生まれて間もなく急死したことを機に、家族全員で洗礼を受け、カトリックに帰依しました
その後、キリスト教信仰やキリシタンの受難を題材とした制作が増えていきました。

2002年(平成14年)死去。享年89才でした。

■長崎市西坂公園内「二十六殉教者記念碑」舟越保武作

3 八郎潟干拓事業

秋田県の西部、男鹿半島の付け根に位置する八郎潟(はちろうがた)。

八郎潟は、かつては東西12㎞、南北27㎞、面積約220㎢と、琵琶湖に次ぐ、日本で二番目に大きな湖でした。当時は、70種以上の魚介類が棲む豊富な漁場でもありました。

現在、大部分の水域が干拓によって陸地化され大規模な水田となっています。この陸地部分が、新たに誕生した自治体、大潟村となったのです。

八郎潟の開発計画は、江戸時代から何度も持ち上がっては消えていた事業でした。
戦後の食糧不足を解消する目的で、国の事業として、着工に漕ぎ着けたのは、1957年(昭和32年)のこと。

1955年(昭和30年)に就任した、小畑知事は、八郎潟干拓を県政の最重点政策とし、湖岸の漁業関係者への補償問題の解決に取り組みました。

1956年(昭和31年)2月、極寒の中、漁業組合員全員へ参加を呼びかけて行われた、各地の「漁民大会」は、知事の説明を聞こうという多くの人々が詰めかけ、緊迫した雰囲気だったそうです。

条件付きながらも、干拓賛成に持っていったのは、小畑知事に対する県民の信頼があったからこそだと思います。小畑知事は、多くの人の声に耳を傾けようとする人柄だったそうです。

その後20年の歳月を経て、干拓事業は、1977年(昭和52年)3月に竣工。
約852億円の大事業でした。

■干拓事業当時の様子

■小畑知事が執務に使っていた机

■排水工事のボタンを押す小畑知事(昭和38年)

干拓事業が進行している20年の間に、日本の農業環境は大きく変化しました

多収穫品種の普及や、機械化などによる平均収量の増加で米の増産は、重要課題ではなくなったと考えられるようになりました。

1970年(昭和45年)には、ついに政府は、米の生産調整(減反政策)を開始しました。
(その後、減反政策は2018年(平成30年)に廃止)

米の増産を目指していた干拓事業が、成功だったのか失敗だったのか、その評価は分かれてきました。

時を経て、現在、令和の米騒動と言われる、米不足問題が起きています。
急激な人口減少、高齢化による、生産者の減少が、何といっても大きな問題だと思います。

いったい日本の農業は、どういう方向へ進んでいくのか。進むべきなのか。

今、小畑知事が生きていたら、どんなことを思うのでしょうか。
そのご意見を、聞いてみたいところです。

■小畑知事の記念館(大館市)

■県土を見守る小畑知事