香川県の西部、丸亀市にある、丸亀城。
日本一高い石垣のお城です。
標高66mの亀山を利用した、いわゆる平山城(ひらやまじろ)ですが、丸亀市の中心に位置していて、多くの人に親しまれています。
アクセスが良く、美しい石垣や、歴史的な建物も現存しています。市街も一望できます。
その恵まれた条件を活かして、丸亀城内の建物に宿泊できる「城泊(しろはく)」という取組が2024年(令和6年)7月から、スタートしています。
「城泊」も含め、丸亀城の様子をご紹介します。
1 石垣の名城
「丸亀城」が造られたのは、1597年。
讃岐国の領主であった生駒親正(いこま ちかまさ)と、その子どもの生駒一正(いこま かずまさ)によって築城されました。
1615年には幕府による「一国一城令」が出され、一旦廃城となりますが、讃岐国が二つに分けられた後に、西讃岐国の領主となった山﨑家治(やまざき いえはる)により再築されました。
石垣が築かれたのは、山﨑氏の時代とされています。様々な積み方によって築かれた石垣が、今も多く残されています。
現存している天守は、1660年に完成したもの。1943年に国の重要文化財に指定されています。
いわゆる天守閣(てんしゅかく)は、城郭の本丸に建つ大きな櫓(やぐら)で、必要な時には城主の指揮所ともなる重要な場所です。
現在、日本に残っている木造天守は12城ですが、そのうちの一つである「丸亀城」は 日本一小さな天守を持つお城です。
丸亀城は「石垣の名城」とも呼ばれています。
江戸時代初期の、石垣を築く技術が最高水準に達したときに作られていて、優れた技術で積まれた石垣を見ながら散策することができます。その石垣は、高く美しい曲線が特長となっています。
築城四〇〇年を超えた今でも、色あせることの無い、独自の様式美を味わうことができるお城です。
2 時代を超える旅「城泊」
2024年からスタートした城泊。料金は1泊2日、2人で税込み126万5000円。
これまで2組4人が宿泊し(2025年2月現在)、その後も数名の申し込みを受けているようです。
丸亀市としても、知名度向上などの手応えを実感しているとのこと。
丸亀城をシンボルとしつつも、お城だけでなく、駅、港と歩いて楽しいウォーカブルなまちづくりが目指されています。
宿泊場所となるのは、城内の「延寿閣別館」という建物。
屋久杉の一枚板が使われた天井など、簡素でありながら気品あふれる数寄屋風の建築物です。
壁やふすまなど、建てられた当時のものをなるべく残す形で、丸亀市が2億数千万円をかけて改装しました。
運営を行っているのは、全国各地の文化財や、城、名勝などの歴史的建造物を活用し、ホテル・レストラン・結婚式場を展開している、バリューマネジメント株式会社。
全国で急増する空き家や、空きビルの問題、あるいは歴史的建造物の維持、保全といった課題に向き合い、地域の宝である資源を磨き上げ再生することで、持続可能な観光まちづくりに取り組むビジネスを展開しています。
必要な機能性を加えつつも、リノベーションを最小限に抑え、歴史的建造物の趣や風情を、そのまま活かすことを、重要な視点としているようです。
地域が大事にしてきた価値観を踏まえつつ、同時に経済的な持続性を確保していく取組が期待されます。
それにしても「城泊」は、世界の富裕層をターゲットにした、桁違いに高額なプランとなっています。
没入感、いわゆる「イマーシブ体験」といったことが重要なキーワードになっていて、お殿様の贅沢体験をしてもらうプランのようです。
保存会の方々が打ち鳴らす和太鼓による歓迎に始まり、和菓子作りや竹うちわ作りなど、職人と直接対話し、指導してもらうといった、人件費のかかる数々の贅沢な趣向が用意されています。
流石に天守で飲み食いはできないのだろう、と想像していたところ、何と「延寿閣別館」で夕食をとった後、天守を貸し切ってナイトラウンジにし、おつまみと共に、お酒を飲める「晩酌」プランも用意されています。
その「晩酌」の間、陰からそっと、和楽器を、実際に演奏し続けるというサービスも行うようです。
海外富裕層の方々に、戦国の世の日本のお殿様の「没入体験」をしてもらって、地域が持続できるように、沢山お金を落としてもらう、という循環は良いことだと思います。
ただ、折角なら、もう少し「没入体験」のバリエーションを増やせないでしょうか。
できれば我々、日本の一般の人達にも手が届くような、もう少し違う形のイマーシブ体験メニューもあり得るのではないか、と想像したところです。
「お殿様体験」は、何も「贅沢体験」だけに限らないのではないか。
例えば、時の権力者から、恭順を迫られ、屈服すべきか、或いは断固戦うべきか。
そんな「決断を迫られた時のお殿様の気持ちの体験」といった演出も面白いのではないでしょうか。
慶長20年(1615年)であれば、大坂夏の陣により豊臣氏が滅び、徳川氏の天下となった年。
宿泊する日を、史実に基づいた、どこかの日時に設定し、お殿様の没入体験ができれば良いと思います。
例えば、夜、武闘派、穏健派と両方の意見に分かれる家臣団との話し合いが行われたと仮定しましょう。(このあたりは予め映像を作成し、ナイトラウンジなどでお酒を飲みながら鑑賞)
決断は翌朝、お殿様が下すこととして、その夜は解散。
朝、目覚めたお殿様。お城から、城下を見渡して、果たしてどんな気持ちになるものか。
自分がもし、その立場だったなら。
想像すると、ちょっと怖いような気もします。
そんな「没入体験」も面白いのではないでしょうか。
これなら、あまり人件費をかけず、あらかじめ用意した映像を使うことなどで、経費を抑えて臨場感を出すことも可能かしれません。例えば、ディズニーランドのアトラクションのように。
朝食の時、自身の「選択」を踏まえた、その後の「亀山城」の行く末をまとめた映像を鑑賞できると良いかもしれません。
二択にして、二つ映像を用意すれば十分。
一つは史実に基づいた、現在の姿につながる映像。
もう一つは、例えば戦う「選択」をした場合の、仮定を元に制作した、もしかしたら悲しい結末の映像。
このイマーシブ体験の肝は、お殿様の「責任」への「没入」です。
こんな体験なら、一般的な国内観光の宿泊に比べて高額(例えば10万円とか20万円)だったとしても、興味を示す日本の方々もいるのではないか。
特に、ある程度年配の、歴史好きな男性がのってきそうです。場合によっては一人でも体験してみたいと思う方も多いかもしれません。
いずれにしても「没入体験(イマーシブ体験)」と「歴史的建造物」活用の取組の掛け合わせは、今後も、様々な形で注目されていくと思います。