長野県の塩尻市では、1965年(昭和40年)の大雨により発生した、土砂災害の記録動画を作成し、YouTube(ユーチューブ)で公開しています。
1 60年前の災害の記録
今から60年前の1965年、塩尻市を台風が襲いました。
「100年に一度」ともいわれる、珍しい5月の台風でした。局地的な大雨により、土砂災害が発生し、塩尻市史上最多となる、8名が犠牲となりました。
動画は、残された写真や、遺族の証言なでどで構成されています。
土砂崩れの様子も、AIによる映像で、再現しています。
前半は、遺族の方々の証言などにより、当時の大変さが語られます。
貴重な写真などを通じて、被災時の様子が、臨場感を持って伝わってきます。
日本画家の佐原修一郎も、この災害で亡くなっています。
中盤では、気象庁の担当者から、科学的な説明がなされています。極めて珍しい台風の動きであったこと。一方で、今の技術であれば、このような局地的な大雨も、警報として注意喚起できるだろう、といったコメントもあります。
後半は、この災害をテーマにした、防災教育を受けた後の、気付きを得た小学生達の、元気なコメントになっています。未来へ向かう前向きな構成です。
最後は、市長から住民へ、災害に対する日頃の備えを呼びかけるメッセージで、シメとなっています。
(塩尻市の動画は下記から視聴できます。↓)
https://www.youtube.com/watch?v=J9HTIeTAE8g
2 自治体行政の動画活用
地方自治体の行政現場では、首長を中心とした行政当局と、議会、それから地元マスコミが、互いに牽制しあいつつも、三者で協力して地域を良くしていこうという考え方があります。
様々な事件や事故、災害などを、いち早く住民へ伝えるという仕事は、今後も変わらずマスコミの役割です。
しかし、近年は、SNSなどの媒体が発達したことで、各地の自治体が、様々な方法で、直接、情報発信を試みるようにもなってきています。
例えば、自治体の若手職員が、ユーチューバーのような雰囲気で、観光情報などの動画を作る、ということも多くなっています。自治体公式HPの、かたい事業説明の流れの中に、動画が組み込まれるということも、普通に見られるようになっています。
今回、塩尻市が作成した動画は、一見すると、テレビの報道番組の特集などで、見かけるような内容になっています。
ただし実際には、60年前の災害であること、また、相対的には限定的なエリアの被害にとどまることから、現時点で、改めてテレビなどで取り上げることは、あまり想定できないかもしれません。
しかし、地域にとっては、後生に残すべき大事な記録です。
当時を知っている方々が、高齢になっていて、直接お話しを伺うチャンスが少なくなりつつある、という問題もあります。同時に、時間が経ったからこそ、遺族の気持ちも落ち着いています。
そういうタイミングを見計らって事業を進められるのも、自治体ならでは、かもしれません。
もともと自治体は、(あまり人の目に触れない)郷土史などの冊子として、地域の記録を残すといった事業は、得意としてきました。
今回の塩尻市の動画は、次の世代に、地域の貴重な教訓をどう残していったらよいか。
その方法論として興味深い、今日的な形の、一つの事例になっていると思います。

