♠11 「交通空白」解消に向けて(国土交通省)

♠となりの仕事

鉄道やバスなどの移動手段が不足し、深刻な状況となっている、いわゆる「交通空白」地帯。
国土交通省は、地域交通法の改正も視野に、さらなる検討を進めています。

1 地域交通法とは

地域交通法(地域公共交通の活性化及び再生に関する法律)は、2007年(平成19年)に制定されました。

地域の主体的な取組により「地域旅客運送サービスの持続可能な確保に資する地域公共交通の活性化」と「再生」を推進していく、と定めた法律です。

人口減少やモータリゼーションの進展などによる利用者の落ち込みに加え、ライフスタイルの変化などもあり、地域公共交通は、現在、大変厳しい状況に置かれています。

取り巻く状況は、混沌としています。

人口減少により、近隣の中小店舗は減少し、病院は統廃合や移転。学校も、多くが統廃合。このような中で、買い物、通院、通学など日常生活における「移動」の問題が、益々深刻化しています。

人々のライフスタイルの変化も、問題をより難しくしています。

例えば、パート勤務なども含め共働き世帯比率が高まっていますが、地域交通が衰退する中では、高齢者の通院や児童の通学・習い事などに関して、家族による送迎の負担が、増大せざるを得ない状況です。

また、高齢ドライバーによる自動車事故の問題もあります。
運転免許の自主返納の動きが進む一方で、返納後の移動手段に対して不安は募ります。
車社会を前提に、特に地方のまちの機能は、郊外へ郊外へと拡大しました。多くの高齢者にとって、運転免許の返納は、今や、生活上の重大な不都合に直結するのです。

一方で、インバウンドの急速な回復といった環境変化もあります。
この点については、地域交通の活性化を求める、新たな需要であり、やや明るい話題でもあるのかもしれません。

こうした状況を踏まえ、国土交通省においては、2023年(平成5年)に、地域交通法の改正を行いました。あらゆる政策ツールを活用して、人口減少が加速する中、地域公共交通の再構築(リ・デザイン)を図る、とうたった改正でした。

また、この改正により、地方鉄道の(バス転換などを含む)存廃議論の加速化を目的として、事業者の側、或いは逆に自治体の側から要請があれば、国が協議会を設置できる、というような仕組みも設けられました。

これは、地方鉄道の存廃議論を巡って、事業者側が協議を申し入れても、路線廃止や負担増を警戒する自治体側が応じなかったり、協議入りした場合でも議論が前に進まなかったりするケースがあったため、と言われています。

他にも、この改正法で、社会資本整備総合交付金の拡充といった措置も行われました。

地域公共交通の再構築のためには、一定のインフラ整備も、当然必要になってきます。地方公共団体を支援するため、社総交に、新たな基幹事業(地域公共交通再構築事業)を追加するという、財政支援面の踏み込んだ改正も行われたのです。

2 「交通空白」解消に向けて

国土交通省は、2023年(令和5年)を「地域公共交通再構築元年」と位置づけて、取組を進めてきました。

翌2024年(令和6年)7月には、国土交通大臣を本部長とする「国土交通省「交通空白」解消本部」を設置し、地域交通に係る各地の問題を、ひとつひとつ具体的に解決していく、とういう方向性で、さらに取組を進めています。

先般、2025年(令和7年)5月30日に開催された、本部会議において、集中対策期間と位置づける3年間(2025年~2027年)の基本方針が取りまとめられました。

国交省では、駅やバス停が近くになかったり、あっても本数が少なかったりするような地域を「交通空白」と定義しています。調査を進めた結果、現在、全国の2057地域(717自治体)がこの「交通空白」地域にあたり、うち7割で解消に向けた取組が、まだ実施されていないことが分かりました。

取組方針において、この「交通空白」地域について、2027年度までに全ての地域で、その解消にめどをつける、とされたのです。例えば、自治体やNPOが自家用車を運行する「公共ライドシェア」の拡大などで、地域の移動手段の確保を進める、という作戦となっています。

3 地域交通政策のこれから

このように、「交通空白」解消を目指して様々な取組が進められていますが、あまりにも強い人口減少のインパクトの中で、地域交通を取り巻く環境は、実際のところ、厳しい状況が続くもの、と考えられます。

先般、取りまとめられた「「交通空白」解消に向けた取組方針2025」の、冒頭も、このような悲痛な表現となっています。

「地域交通は「地方創生の基盤」である。買物、医療、教育等の人々の生活やインバウンドをはじめ観光の振興に欠かすことができず、地方創生にかかる様々な課題も「交通さえあれば何とかなる」とさえ言われている。
一方で、千年単位で見ても類を見ない人口減少や高齢化、運転者・担い手の圧倒的不足、中小企業が大宗を占めることによる投資余力の少なさや後継者の不在等を背景として、各地の自治体や事業者をはじめ関係者の懸命な努力にも関わらず、地域鉄道やバス路線の減便・廃止が進み、全国各地で「交通空白」が生じている。コミュニティバスやデマンド交通といった自治体等が運営する地域交通サービスも担い手不足に陥っており、地域交通は、需要・供給の両面から危機的な状況にある・・・」

また、取組の主体とされている市町村の現状について、このような記述となっています。

「地域交通法の制定以来、各地域における地域交通の司令塔役を期待されてきた市町村等においては、政策課題が山積するなか、特に人口規模の小さな中小自治体において、ノウハウやマンパワー不足など政策の企画・実施両面から体制面で大きな課題を抱えている・・・」

あらゆる今日的な課題が、市町村の現場に、その解答が求められるようになってきています。

国の方法論としては、自治体側に課題解決に向けた計画を作らせて、意図する計画が出来たところには、お金を出して支援する、という形が一般的です。

もどかしく感じるのは、それぞれの地域課題は、国の省庁の守備範囲に合わせて、縦割りに、独立して存在しているのではない、という点です。

課題は、地域の現場において、福祉や教育、或いは産業振興など、複合的に絡み合って存在しています。

例えば、地域交通の問題も、単にインフラ整備やネットワーク確保の話しだけなのではなく、病院や学校の統廃合など、その地域のあり方や、行く末と密接に絡み合って存在しています。課題解決に向けた計画を立てるにしても、交通のことだけ考えていたのでは、結局、持続可能な答えは出てこないのです。

まだ、全国的に「正解」が見えていない、難しい問題なのだと思います。

一方で、プラスの方向の、明るい兆しも感じられます。

一つには、インバウンドの増加の中で、地域交通のレベルアップに期待が寄せられているという点です。国交省の取組方針でも「地域の足」と並んで、「観光の足」という表現で、切り分けて状況を分析し、取組を進めていくこととなっています。観光事業関係者からの、「切実な期待」も強いのだと思います。

また、デジタル技術を活用した取組(DX)も、期待できる分野です。必ず何らかの成果が出てくる方向性だと思います。絶対的な人手不足の中、「地域の足」「観光の足」の確保のためには、自動運転の普及・拡大などが必須です。これまでの歴史の中で、テクノロジーは、必ず我々に答えを出してくれています。

地域交通は、様々な地域課題の中でも、特に、象徴的な問題です。

地域交通に対する各地の取組については、このサイトにおいても、今後も注視していきたいと考えています。