2025年(令和7年)5月30日、今年も八戸市民大学が開校しました。
八戸市民大学は、市民の生涯学習の場として、毎年開催されている取組です。
令和7年度の第1回目の講師は、NHKの筋肉体操でもおなじみの、谷本道哉(たにもとみちや)さん。当日、会場には、多くの人がつめかけました。
1 市民大学とは
現在、全国各地の自治体で、住民へ学習機会を提供することなどを目的として、様々な取組が行われています。
事業の名称としては他にもバリエーションがあって、例えば「○○カレッジ」や、「○○講座」、或いは「○○塾」と様々です。
取り組む主体はだれか、といった面でも、幾つかの類型があります。
例えば正規の大学が、地域貢献などを目的として「公開講座」という形で住民向けに学びの場を提供する取組も多く見られますし、また、近年では、NPOなど、地域住民が主体となって取組を進めている事例も増えています。
そもそも「市民大学」といっても、学校教育法に定められた大学ではありません。
行政の事業の場合、法的な背景として見れば、大きく次の二つの流れになります。
一つは「老人福祉法」に基づいて、主に高齢者の福祉向上といったことを目的に行う場合。
もう一つは、「社会教育法」や「生涯学習振興法」に基づいて取り組む事業。
後者の場合は、教育の意味合い強くなり、行政の中でも、教育委員会が事業主体となってきます。
八戸市民大学(正式には八戸市民大学講座)も、生涯学習の推進を目的として、八戸市教育委員会が行っている事業になります。
各地で行われているこのような事業について、具体的に各講座のテーマを見ていくと、今日的な、様々な社会課題が取り上げられていたり、或いは、行政的な課題意識からきていたりと、雑多なテーマが混在している様子もうかがえます。
例えば、環境問題であったり、男女共同参画であったり、或いは地域活性化だったり。
住民の学習意欲に資するように、幅広く講座を提供しようとする意図の一方で、行政の各担当課が、主催者側の教育委員会とタイアップして、事業化している場合も多いと思います。
八戸市民大学の、令和7年度の第1回目の講義も、テーマは「健康寿命を延ばす」。
高齢者福祉行政の、近年の、大きなテーマの一つです。
順天堂大学大学院のスポーツ健康科学研究科、谷本道哉教授による「100歳まで歩ける体づくり」と題する講演が行われました。
2 令和7年度八戸市民大学第1講座
八戸市民大学は、1970年(昭和45年)から続いている取組です。
令和7年度も、5月を皮切りに、前期5回、後期6回の全11回の講座が開催されます。
第1回目の講師は、最近メディアでもよくお見かけする谷本道哉さん。その経歴を見れば、大阪大学工学部を卒業し、東京大学大学院に進み、現在は順天堂大学大学院で教授をされている方。
つまり「理論的に話すボディービルダー」というより「マッチョな現役の大学教授」という説明がふさわしいと思います。
当日の会場は、1500席ほどの広いホールでした。スペースを残しつつも、後ろの方の席まで埋まっていました。この手の行政のイベントとしては、大盛況だったと思います。
そのような限られたスペースの中でしたが、谷本先生の指導の下で、いくつかの筋トレを、実際に、参加者全員で行う流れになりました。
思い立ったら、いつでもどこでも出来るのが筋トレの良いところです、という谷本先生の明るく厳しいかけ声の下、参加者もだんだんその気になっていきました。
跳ね上げ式イスの、一般的なホールの作りでしたが、確かに、横を向いて、周りの人との間隔を少し工夫すれば、正しい姿勢で、スクワットをすることが可能でした。
続けて、後ろを向き、自分の座席の背もたれをしっかりつかんで、斜めの体の角度で、腕立て伏せも行いました。
メインの講演も、研究者らしく、エビデンスに基づいた説明で分かりやすく、そして納得感があるものでした。
個人的にやる気が湧いたのは、筋トレで出てくる乳酸と脳の働きの話し。
かつて疲労物質といわれていただけの乳酸ですが、脳のエネルギーとしても重要な役割をもっていることが、最近の研究でわかってきた、とのこと。
仕事の合間に手軽な筋トレを行うことで、気分をリフレッシュできるだけでなく、脳の働きによい物質(乳酸)が出て、仕事の効率も高まるはずです、という科学的なお話しでした。

■会場となったSG GROUPホールはちのへ

■会場内部。終了後、先生と写真を撮りたい人で長蛇の列に
3 市民大学の今後
令和5年度の文部科学白書の中で、「人生100年時代」「超スマート社会(Society 5.0)」に向けて社会が大きな転換点を迎える中にあって、生涯学習の重要性は一層高まっている、と記述されています。
続けて、白書は「文部科学省では、国民一人一人が生涯を通して学ぶことのできる環境の整備、多様な学習機会の提供、学習した成果が適切に評価され、それを生かして様々な分野で活動できるようにするための仕組みづくりなど、生涯学習社会の実現のための取組を進めている」と説明しています。
(令和5年度 文部科学白書 第1章 第4節 国民一人一人の生涯を通じた学習の支援 )
このように、行政のスタンスとしては、これからも住民に『多様な学習の機会』を提供していきます、というものです。
しかし、住民一人一人の好みは様々で、はてしなく多様化、細分化しています。
運動を好む人もいれば、静かに芸術を好む人もいます。或いは歴史を学びたい人も。
年数回の講座で、地域住民の要望を網羅したメニューをそろえて「学習機会を提供する」というのは、事実上、難しいことだと思います。
では、現実問題として、どう考えたらよいか。
これだけ、情報収集が容易で、交通インフラも発達した現代。
広域でとらえて、近隣の自治体の事業に参加させてもらってはどうかと思います。
近所の市町村で、自分が興味のあるテーマを取り上げているようなら、少し足をのばしてみたらよいのではないか、ということです。
このような意味で、八戸市民大学が、市民に限らず、受講者を広く受け入れてくれているのは、大変ありがたいと感じたところです。
ところで、このような「市民大学」などのイベント系の取組の場合、役場の中の、事業担当課は、財政当局と折衝し、毎年度、予算を確保するという作業をしています。
事業の効果や必要性を、財政当局に説明し、納得してもらうのに苦労する、という話しもよく聞きます。
今回、谷本先生にうながされて、数百名の市民の方々が、喜んで筋トレをしていました。
きっと、今後も習慣として続ける方々も、多いだろうと思います。
将来、行政が負担するはずだった、介護保険などに係る経費が、今回の講義の効果で、間違いなく、いくばくかは圧縮されることになっただろう、と想像されるところです。
会社の健康経営ならぬ、健康自治体経営といった視点も、確かに重要だと思いました。
最後に谷本先生が言っていました。
街中の公園や、会社のオフィスで、気軽に筋トレしている人を、普通に見かける社会が理想だと思うと。
一人一人ができるだけ長く健康に過ごし、その分、行政コストの縮減にもつながるような健康社会。確かに、体も心も健全な、望ましい社会の姿だと感じたところです。
