♦1 黒姫童話館(長野県信濃町)

♦となりの建築

1 概要

黒姫(くろひめ)童話館は、長野県信濃町の黒姫高原にある、町立の文学館です。
世界の童話をテーマとして、1991(平成3年)にオープンしました。

「はてしない物語」や「モモ」を書いたドイツ人作家ミヒャエル・エンデの資料を本人の寄贈により収蔵している、世界でも大変珍しい常設展示施設です。

館内にはエンデの作品の原稿や挿絵・下書きなどのほかに、各国の代表的な童話、日本の民話や長野県に伝わる昔話などが展示されています。

屋外には、いわさきちひろがアトリエとして実際に使用していた、黒姫山荘が移設されており、併せて見学することができます。

  • 開館期間:4月5日 ~11月30日
  • 冬期休館:12月1日 ~ 翌年4月4日
  • 開館時間:9時 ~ 17時
  • 入館料:大人600円、小・中学生400円

国内外の童話作家の人となりと作品を、子供も大人も親しみを持って学べる施設となっています。

黒姫の森と草原に囲まれた豊かな自然の中で、文学と芸術と自然が一体的に楽しめる空間づくりがすすめられています。

2 建設経緯

信濃町と、日本の児童文学関係者とは、もともと長いお付き合いがあったようです。

『スーホの白い馬』などの画家、赤羽末吉が山荘を建てたいと考えて、信濃町の初代の町長さんに相談し、土地を斡旋してもらいました。
それがきっかけとなり、その後、赤羽のほか、いぬいとみこや、いわさきちひろなど、多くの児童文学にかかわる作家や画家、編集者があつまってきて、文化人の別荘地となっていったのです。

しかし、ミヒャエル・エンデと、信濃町とは、もともとゆかりは、何もありませんでした。

1980年代後半、信濃町では、黒姫高原牧場の建物跡地の利用が検討されていました。

1988年(昭和63年)から1989年(平成元年)にかけて、日本で行われた「ふるさと創世事業」。
国から、各市区町村に対し地域振興のために1億円が交付された、あの事業。

正式名称は「自ら考え自ら行う地域づくり事業」。

この、所謂「ふるさと創世一億円事業」を活用して計画されたのが黒姫童話館だったようです。

冬場はスキー客で賑わっていた一方で、グリーン期の集客が、地域の大きな課題。
当時、児童文学作家ゆかりの場所として、いろいろな構想が練られていたようです。

そんな中、1989年に日本で「エンデ父子展 ~エドガーからミヒャエルへファンタジーの継承」という企画展が開催されることになりました。
(因みに、ミヒャエル・エンデのお父さんがエドガー・エンデ。シュルレアリスムの画家です。)

この企画展にあわせて、ミヒャエル・エンデが来日することを、たまたま新聞の記事で知った、当時の役場の方々。
なんとかつてを辿って直接ご本人にお会いし、黒姫童話館への思いを伝え、多くの資料の寄贈を受けるところまで、漕ぎ着けたということです。

児童文学者達との古くからの縁を活かすとともに、巡ってきたチャンスを逃さなかった当時の担当の方々の勇気と行動力。

そのおかげで、今、子供だけでなく、我々多くの大人の心も癒やしてくれる、世界でも外にはない、貴重な空間づくりにつながったようです。